岡山地方裁判所 昭和43年(わ)775号 判決 1969年5月16日
主文
被告人を禁錮一〇月に処する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、
第一、自動車運転の業務に従事しているものであるが、
(一) 昭和四三年六月二六日午前一時三〇分頃、大型貨物自動車(岡一せ六七―四五号)を運転し、時速約四〇キロメートルで兵庫県伊丹市本町三三七番地付近道路を東進した際、前方交差点の信号が東西道路に対し「赤」色に変ったのを同交差点の手前約一三メートルの地点で認めたのであるから、かかる場合自動車運転者たるものは右信号に従い、自車を同交差点の手前で一旦停止させ、信号が「青」色に変ってから同交差点を通過するようにし、事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのに、先を急いでいたところからこれを怠り、右「赤」色信号を無視して前記速度のまま同交差点内に自車を進入させた過失により、折から「青」色信号に従い南進して同交差点内に進入して来た平田英司運転の軽四輪自動車の進路を妨害して同車前部に自車左側部を衝突させ、よって同車の同乗者小堀恵子(当三七年)に加療約一〇日間を要する前頭部等打撲傷の傷害を負わせた、
(二) 同日午前七時三〇分頃、前記自動車を運転し、同県加古川市平岡町新在家五〇五番地付近道路を、先行車である小藪秀和(当二二年)運転の普通自動車に追従して時速約五〇キロメートルで西進したが、かかる場合自動車運転者たるものは、右先行車の動静等を十分注視しつつ進行し、右先行車が減速若しくは停止した場合には直ちに自車をそれに即応させることができるようにして追突事故等を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのに、不注意にも、偶々前方交差点右側道路から左折して東進対向して来た大型貨物自動車に注意を奪われて暫時右先行車等に対する注視を怠ったまま漫然前記速度で進行し続けた過失により、折から右先行車が同交差点直前で「赤」色信号に従い一旦停止したのを早期に発見できず、その手前約八・三メートルまで迫って漸く気付き、直ちに急制動の措置を講じたが及ばず、同車後部に自車前部を追突させ、その衝激により前記小藪に加療約六七日間を要する頸椎捻挫の傷害を負わせた、
第二、(一) 前記第一、(一)記載のとおり、自動車を運転中、小堀恵子に負傷させる交通事故を起したのに、直ちにその事故発生の日時場所等法令に定める事項をもよりの警察署の警察官に報告しなかった、
(二) 前記第一、(二)記載のとおり、自動車を運転中、小藪秀和に負傷させる交通事故を起したのに、直ちにその事故発生の日時場所等法令に定める事項をもよりの警察署の警察官に報告しなかった、
第三、公安委員会の運転免許を受けないで、犯意を継続して、前記第一、(一)および(二)記載の日時場所において、前記大型貨物自動車(岡一せ六七―四五号)を運転した、ものである。
(証拠の標目)≪省略≫
(確定裁判)
被告人は、昭和四三年一〇月二二日、広島高等裁判所岡山支部において、窃盗罪により懲役一年二月、五年間保護観察付執行猶予に処せられ、右裁判は同年一一月六日に確定している。この事実は≪証拠省略≫によって認める。
(法令の適用)
判示第一の(一)、(二)の所為について
いずれも刑法二一一条前段、罰金等臨時措置法三条一項一号(いずれも禁錮刑を選択する)
判示第二の(一)、(二)の所為について
いずれも道路交通法一一九条一項一〇号、七二条一項後段(いずれも懲役刑を選択する)
判示第三の所為について
道路交通法一一八条一項一号、六四条(懲役刑を選択する。)
併合罪について
刑法四五条後段、五〇条、四五条前段、四七条本文、一〇条(判示第一の(二)の罪の刑に加重する。)
訴訟費用の負担免除について
刑訴法一八一条一項但書
(罪数についての当裁判所の見解)
検察官は、判示第三の無免許運転の所為について、判示第一の(一)の場所での無免許運転と、同(二)の場所での無免許運転とは別罪である旨主張するのであるが、当裁判所は、以下に述べる理由によって、右は包括一罪の関係にあるものと考える。すなわち、
≪証拠省略≫によると、被告人は、自動車の運転免許を有しなかったけれども、大型貨物自動車の運転ができたところから、岡山市内より豊中市内まで水飴を運搬するため、大型貨物自動車の無免許運転を決意し、荷降し後は直ちに帰岡するつもりで、本件前日の昭和四三年六月二五日午後九時頃、水飴を積載した大型貨物自動車を運転して岡山市を出発し、往路伊丹市内において判示第一の(一)の事故を、帰途加古川市内において判示第一の(二)の事故を各惹起したが、無免許運転の発覚をおそれて、いずれの事故をも警察官に届け出ることなく、各被害者と示談で解決する旨約束を交した後、更に運転を継続して岡山市に帰った事実が認められる。
ところで、前記認定の事実によると、判示第一の(一)の伊丹市と同(二)の加古川市とは相当の遠距離にあり、しかも犯行時間は前者が午前一時三〇分頃、後者が午前七時三〇分と六時間のへだたりがあるうえ、それぞれの個所において他車と衝突事故を起こして運転を中断しているなど右両地点における無免許運転が別個の犯罪として成立するかのような事情も存在している。
しかしながら、被告人は、もともと、水飴運搬のため、岡山・豊中間を大型貨物自動車を運転して往復することを決意しこれを実行していたものであって、途中二度にわたって事故を起こしているけれども、いずれの場合も、無免許運転をとがめられてそれを断念し更に犯意をあらたにして爾後の無免許運転を開始したような事実が認められないばかりか、むしろ無免許運転の事実を秘匿してそれを継続しようとした事実が窺われるので、前記二個の場所における無免許運転は、同一の犯意に基き岡山・豊中間を往復した継続的な無免許運転の一部とみるのが相当である。
そうとすると、本件は、岡山・豊中間を往復した無免許運転行為を認定すべきではあるが、検察官が訴因として主張しているのは前記二個所におけるそれのみであるから、訴因の制約上、右主張の場所以外での無免許運転を認定しえないけれども、訴因の構成のいかんによって罪数が決まるのではなく、両者が一罪の各一部であることに変りないから、前記二個所における無免許運転を認定したうえ、両者が包括一罪の関係にあると評価すべきである。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 岡次郎)